喘息治療の吸入薬の選び方
こんにちは!
寒くなった冬場頃より、COVID-19やインフルエンザ罹患後の咳喘息を含め、長引く咳嗽で相談に来院される患者様が増えております。
実はわたくし院長も気管支喘息を患っており、喘息増悪時には吸入薬を使用しておりますので、これまで多数の吸入薬を自身で使ってきた経緯もあります。したがいまして、花粉症と同様、喘息の治療薬にも想い入れがあります。
そこで、今回は、喘息治療時の根幹を成す”長期管理の為の吸入薬”の選び方について当院の考え方を挙げたいと思います。
まずは重症度の評価が先決
臨床経過やスパイロメトリ検査などから喘息と考えられた場合に、次のステップとして、まずは重症度の評価が必須となります。
「喘息予防・管理ガイドライン 2021」では、重症度を下記のように分類しております。
① ステップ 1:症状が週1回未満、夜間症状が月に2回未満
② ステップ 2:症状が週1回以上だが毎日ではない、日常生活が一部制限される
③ ステップ 3:症状が毎日ある、日常生活が大きく制限される
④ ステップ4:治療下でも増悪症状が毎日ある、夜間症状で睡眠が妨げられる
そして、この分類に従って、吸入薬の選択を下記の通り、推奨しております。
①:吸入ステロイド(ICS)
②~④:吸入ステロイド(ICS)に長時間作用性β2刺激薬(LABA)を併用
→それでもコントロールが困難な場合、上記に長時間作用性抗コリン薬(LAMA)も併用
※ 吸入薬以外に内服薬の併用も推奨しておりますが、当記事では分かりやすさを優先し、吸入薬のみにピックアップして説明します。
上記を分かりやすいようにイラスト図にしてみましたのでご参照下さい。
そこで、上記吸入薬のうち特に使用されることが多いものについてピックアップして、さらに具体的に説明していきたいと思います。
まずはいつもの通り、イラストで可能な限り分かりやすく簡易化しましたので、一度ご覧いただいてから、下記読み進めていただけると分かりやすいと思いますのでご参照下さい。
吸入ステロイド(ICS)
軽度の喘息症状(ステップ 1)では、まずは気道の炎症を抑える吸入ステロイド(通称 ICS)による治療から始まります。
ICSとして用いられる吸入薬としては、下記の2つが多く用いられる印象があります。
フルタイド(フルチカゾン)
吸入器の種類が多く、患者さんに合ったものを選びやすいという特徴があります。
また、粒子の大きさが大きめの為、肺のより口側の炎症に効きやすいと言われております。
下で説明するアドエアの成分を含んでいる為、アドエアへのステップアップ・ステップダウンとして使いやすいという特徴もあります。
パルミコート(プテソニド)
タービュヘイラーと呼ばれるパウダー(粉)タイプの吸入ステロイドです(シムビコートの項で図示しています)。
咽頭部への副作用が少なく、安全性の報告が最も多くされておりますので、お子さんでも使いやすく、妊婦さんにも優先的に処方されることが多いです。
下で説明するブテホルの成分を含んでいる為、ブテホルへのステップアップ・ステップダウンとして使いやすいという特徴もあります。
吸入ステロイド(ICS)+長時間作用性β2刺激薬(LABA)
ステップ 2以降の喘息症状では、ICSに気管支拡張作用のある長時間作用性β2刺激薬(通称 LABA)を併用した治療を考慮します。
ICSとLABAを別々に吸入するよりも、現在は両者を配合した吸入薬が存在する為、下記のような配合薬が多く用いられます。
ブデホル(シムビコート)
ブデホル(シムビコート)は、即効性のある成分も含まれる為、発作時に追加吸入することもでき(SMART療法と呼びます)、呼吸器内科など非常に多くの場で処方されている効果の確立した吸入薬です。わたくし院長も自身の治療に用いており、当院でも採用することが多い吸入薬です。
また無味無臭で違和感が少なく、咽頭部への副作用が少ないこともメリットです。実際、ブデホルを使用いただいた当院の患者様でも咽頭部症状を認めた方は数少ないです。
デメリットとしては、デバイスとして用いられるタービュヘイラーの操作性がやや難しい為、処方時には必ず使い方を指導しております。また、他の吸入薬と比較すると薬価が高いという点も挙げられます。
※ 尚、ブデホルとシムビコートの違いは、ジェネリック(ブデホル)か先発品(シムビコート)かの違いですので、どちらを選択するかは当院ではなく”薬局の判断”となります(当院の処方箋は全て”一般名”=成分での記載となりますので、ブデホルとシムビコートの場合は”ブデソニド・ホルモテロールフマル酸”と処方箋に記載されます)。ジェネリックか先発品かで効果自体についてはわたくし院長としては差異は感じておりませんので、そこにこだわりはありません。したがいまして、万が一いずれかをご希望される患者様は薬局にお申し付けいただけますと幸いです。
レルベア
レルベアは、唯一1日1回の吸入で済み、操作性が簡単で最も安価というメリットもあり、ブデホル(シムビコート)同様当院で採用することの多い吸入薬です。
エリプタと呼ばれる特殊なデバイスで、吸入器の中にドライパウダー(粉末)がセットされており、吸い込み口から思い切り吸い込んで吸入します。シンプルなデバイスである為、処方されるケースを多く見かけます。
一方、粉っぽいと感じられる方が多く、粒子の大きさもやや大きめの為、咽頭部への副作用がやや高めな点がデメリットとなります。
アドエア
アドエアは、息を吸う力が弱い方でも扱いやすいエアゾールと呼ばれる噴霧型のデバイスがあり、幼児や高齢者でも扱いやすいというメリットが特徴です。
エアゾールタイプは、「シュッ」と噴霧された時に、しっかり吸い込まなければならない為、慣れない初めのうちは上手に吸入できない可能性が高いです。
またのどに直接噴霧される為、咽頭部への副作用はシムビコートよりもやや高めな点がデメリットとなりますが、いずれが良いかという明確な結論は未だ出ておりません。
フルティフォーム
アドエアと同様、息を吸う力が弱い方でも扱いやすいエアゾールのデバイスがあり、幼児や高齢者でも扱いやすいというメリットが特徴です。
粒子が小さく、肺の隅々まで行き渡りやすいという特徴があります。
吸入ステロイド(ICS)+長時間作用性β2刺激薬(LABA)+長時間作用性抗コリン薬(LAMA)
上記 ICS+LABAの合剤吸入薬含めた既存の喘息治療でもコントロールが困難な場合の次のステップとして、LABAとは別の機序で気管支を拡張させる長時間作用性抗コリン薬(通称LAMA)を併用することが可能です。
現在は3剤の合剤(トリプル製剤)が存在し、気管支喘息に用いられるものは下記の2つになります。
テリルジー
比較的古くから使われているトリプル製剤です。
しっかり強く吸い込む必要がある為、使い初めは吸った瞬間にむせてしまうことがありますが、次第に慣れていきます。
操作性がエナジアに比較してやや簡易というメリットがあります。
エナジア
比較的新しいトリプル製剤となります。
ゆっくり吸い込むだけで効果を得られる為、息を吸う力が弱い方でも扱いやすいというメリットがありますが、逆に強く吸ってしまうとむせてしまうことがあります。
操作性がテリルジーに比べやや劣る為、最初は煩雑に感じることがあります。
吸入薬はその効果だけでなく多くの観点から選択する
吸入薬は、一般にその効果の強さだけで選択はしません。
最も大事なのは、“しっかり吸入できるかどうか”です。いかに良い吸入薬でもしっかり吸入できなければ効果は期待できません。
実際、治療をしていても改善が得られない要因として、吸入薬の効果そのものではなく、
① 症状が軽快したので薬を自己中断(通院中断)されてしまう
② 吸入がしっかり使えていない
のいずれかの因子が原因のことが多いです。
そこで、当院では、下記の観点から、さらに吸入薬を選択しております。
吸気速度の確保
上で説明した通り、シムビコートやレルベアに比べて、アドエアはしっかり吸えない患者様でも、” 3秒程でゆっくり”吸い込むことで投与が可能です。
操作性や携帯性
操作性や携帯性は非常に重要な点でもある為、処方後にしっかり使えているかどうか、残数が処方日数に合っているかどうかなどを確認し、問題があれば、操作性がより良い吸入薬に変えることも検討します。
局所的副作用
咽頭部刺激・嗄声(声がかすれる)・咳嗽・口の中の乾燥などが副作用として挙げられます。
吸入薬の使用後はしっかりうがいすることが大切ですが、このような副作用が生じた場合には、吸入薬の中止や変更を検討する場合がございます。
上記の通り、喘息の吸入薬は様々な種類があり、当院では患者さんの状況に応じて使い分けを行っております。
当院では上記全ての吸入薬を用いておりますので、疑問がある場合には遠慮なくご質問下さい!
※ 当記事では喘息の”長期管理の為の吸入薬”について説明しておりますので、”発作時に用いる吸入薬”とは異なります。
※ 当記事は患者さんへの分かりやすさを最大の優先事項としている為、薬の細かな作用機序や例外事項などは一部省略しております。