循環器医から見た高血圧薬の選び方|湘南いいだハートクリニック|平塚市の内科(一般内科・循環器・心臓血管)

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医療コラム

循環器医から見た高血圧薬の選び方|湘南いいだハートクリニック|平塚市の内科(一般内科・循環器・心臓血管)

循環器医から見た高血圧薬の選び方

 こんにちは!

 ゴールデンウィーク明けからオミクロン株対応ワクチンの春夏接種が開始されます。

「春夏接種用接種券」が順次配布されていると思いますが、5月8日から接種できる方は65歳以上の方・基礎疾患のある方など限定されております。詳細は、予防接種の案内にて説明しておりますが、自身が基礎疾患にあたるか分からないなどご不明な点があれば遠慮なくご相談・お問い合わせ下さい。

 では、今回はそのような基礎疾患に該当する”高血圧症”のお薬について、当院ではどのような視点で選び調整しているかという点について説明したいと思います。

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 高血圧症の治療薬は、その作用機序から、

A)Ca blocker 

B)ARB、ACE-I 

C)ARNI (エンレスト)

D)利尿薬 

E)β blocker 

の大きく5つに分類すると分かりやすいです。

 そこでこれら5つの大まかな特徴を下にまとめてみました。

 このように高血圧の治療薬は非常に多彩な為、薬の選び方に先生の癖が出やすいのも特徴ですが、当院では、

① 血圧を下げる効果 

② 血圧を下げる以外の効果(特に心臓や腎臓を守る効果など) 

③ ポリファーマシー(多剤)にならないようにする 

という3点を重視した上で、患者さんの背景を加味して薬の選択・調整をしております。

 特に高血圧治療は、”血圧を下げさえすれば良い”という考えではなく、”血圧を下げながら心臓や腎臓などの臓器を長期的に守っていく”という②の視点を重視しています。

(もちろん患者さん毎の血圧や高血圧治療薬に対する想いに耳を傾け、ご希望に沿う形で内服加療しております。)

 その選択・調整の上で参考になる特徴をそれぞれの分類毎に説明していきたいと思いますので、分かりにくくなりましたらこの分類に立ち戻っていただけましたら幸いです。

Ca blocker

 Ca blockerは高血圧治療の王道です。

 血管を広げることで降圧作用が得られます。

 後に説明するARB、ACE-IやARNIなどと比較すると、心臓・腎臓を守る作用は劣りますが、それでも高血圧治療薬として頻用されるのは、“副作用が生じにくく、他の薬との併用の幅も広く、薬価もそれ程高くない”という点にあると思います。

 Ca blockerの代表格は、アムロジピンとアダラートCR(ニフェジピン)です。

 アムロジピンは1回内服で1日中満遍なく降圧効果を得られ、配合錠も多数あり薬の量を減らすという観点でも頻用されています。

 一方、アダラートCRはアムロジピンよりも切れが良く(降圧効果が強く)、早朝高血圧もうまく使えばコントロール(改善)しやすいという特徴があります。また冠攣縮性狭心症(異型狭心症)にも効果がある為、患者さんの高血圧状況や背景疾患をよく加味しながら薬の選択を行っています。

 尚、その他のCa blockerであるコニール(ベニジピン)やヘルベッサー(ジルチアゼム)は冠攣縮性狭心症(異型狭心症)に、ワソラン(ベラパミル)は頻脈性不整脈に主に用いられ、降圧作用も弱い為、高血圧症の治療単独の目的で用いられることは一般的にはありません。

 副作用としては、頭痛や高用量だと足のむくみが出ることがありますので内服後にこのような症状が出てきたらすぐにお薬を変更します。また、グレープフルーツジュースで降圧力が増強することが知られていますが、グレープフルーツジュースを愛飲している患者さんでない限りは神経質に避ける必要はありません(ベースの血圧によっても異なる為、詳細は担当医にご確認下さい)。

ARB、ACE-I

 ARBはレニン-アンジオテンシン系と呼ばれる生命予後を悪化させるホルモンの流れの悪循環を抑制することで、降圧だけでなく“腎臓を守る作用”も兼ね備えた高血圧治療薬の”調味料”的な立ち位置にあります。

 Ca blockerでも降圧が不十分な患者さんで併用されることが多いですが、慢性腎臓病を背景疾患に持つ高血圧症患者さんなどでは第一選択として選ばれることも多くあります。

 ARBには、報告されている強さの順に

アジルバ(アジルサルタン)

>オルメテック(オルメサルタン)

>ミカルディス(テルミサルタン)

>ブロプレス(カンデサルタン)

>ニューロタン(ロサルタン)があります。

 より強い降圧を求めるのであればアジルバを選択することが多く、逆にご高齢で強い降圧を求めない場合にはニューロタンを敢えて選ぶケースもあります。

 一方で、ACE-IもARBと似た機序で“腎臓を守る作用”を持ちますが、それ以上に心臓を守る作用に長けており、心臓の病気(収縮不全)をもつ患者さんの生命予後も改善する為、循環器医が特に好む薬です。

 ACE-Iとしては、レニベース(エナラプリル)がほとんどの場合で用いられますが、降圧効果は弱めの為、降圧が主な目的の場合にはあまり用いません。また、次に説明するARNIの台頭により今後は新規に導入される頻度は減ってくる可能性が推測されます。

 尚、副作用としては、腎機能悪化や高カリウム血症などがある為、これらを内服されている患者さんでは定期的な採血確認が必須となります。

ARNI(エンレスト)

 ARNI(エンレスト)はARBやACE-Iの持つレニン-アンジオテンシン系を抑制する作用だけでなく、血管拡張作用や利尿作用なども併せ持つことで心臓の負担を取ってくれる新時代の心不全治療薬です。心臓の病気をもつ患者さんにとっては救世主のようなお薬となっています。

 2020年には高血圧症のお薬としても認定され、高血圧治療薬として導入されることも多くなりました。

 高血圧症の患者さんは多かれ少なかれ心臓に慢性的な負担がかかり、心臓が次第に硬くなっていきます(拡張障害と呼びます)。これがさらに進行するといずれ心不全を発症します(採血項目のBNPという数値が上昇します)。したがって、血圧を下げながら長期的な視野で”心臓を守っていく”という意味合いでも非常に優れたお薬ですので、当院では患者さんのバックグラウンドを加味した上で高血圧治療薬として導入することも少なくありません。

 また、既に心臓の機能が低下した患者さんではARB・ACE-IからARNIへ切り替えることもガイドラインで現在は推奨されています(Class Ⅰ=最優先)。

 さらにARB・ACE-Iと同様、“腎臓を守る作用”も兼ね備えるのに加え、不整脈を減らしたり糖尿病や高尿酸血症などを改善する作用も報告されています。

 一方で、心臓の背景疾患によっては過降圧やふらつきを促すこともあり、比較的新しいお薬でもある為、特に導入時は慎重にフォローや調整をする必要があります

 尚、内服後に尿量が増えることがありますが、その場合は心臓により良く効いているということを示唆していますので継続が望ましいと考えています。ただし尿量が増えることで日常生活に差し障りが出る場合には内服のタイミングを変えるなどで対応しております。

 また、腎機能やカリウムなど定期的な採血確認が必須なのはARB・ACE-Iと同様です。

利尿薬

 高血圧症に用いられる利尿薬には① サイアザイド系利尿薬 ② ミネラル受容体拮抗薬 の大きく2種類があります。

 体内の過剰な塩分と水分を取り除くことで降圧作用を示しますが、ミネラル異常をきたしやすく、第一選択薬として選ばれることはほとんどありません。

 ただし、Ca blockerやARB・ACE-Iなどでも降圧が不十分な場合や、塩分摂取が過剰な患者さんなどに導入すると、比較的容易に降圧が図れるケースがあります。

 サイアザイド系利尿薬には、フルイトラン(トリクロルチアジド)やヒドロクロロチアジドがあります。

 ミネラル受容体拮抗薬には、アルダクトン(スピロノラクトン)、セララ(エプレレノン)、ミネブロ(エサキセレノン)があります。

 この中で、アルダクトンは”心臓を守る作用”も併せ持つ為、心不全治療薬として使用されることの方が多いです。

 また、ミネブロは、”腎臓を守る作用”で最近注目されている新時代の期待薬です。

 上記の通り、いずれも腎機能悪化やナトリウムやカリウムなどミネラル異常をきたすことがある為、やはり定期的な採血確認は必須です。

β blocker

 β blockerは、心不全や頻脈性不整脈・期外収縮など心臓の病気に対して主に用いられることが多く、降圧作用もそれ程強くない為、高血圧治療単独の目的に用いられることは一般的にはありません。

 β blockerにはアーチスト(カルベジロール)とメインテート(ビソプロロール)があり、“心臓を休ませる”作用が主な目的となります。

 また、気管支喘息や肺気腫、徐脈(脈が遅い)などの患者さんでは使いづらく、その使用には処方医の使い慣れがある程度必要です。

 

 このように高血圧治療薬は非常に多数あり、それぞれ特色があるので、ただ血圧を下げることだけを目的とせず、現在あるいは今後想定しうる背景疾患(心臓疾患や腎臓疾患など)も加味して患者さん毎に長期的視野で最も適した治療薬の選択調整を行っています。

 高血圧治療は専門に行ってきた分野でもありますので、高血圧症でお困りの患者様はお気軽にご相談ください!

 

※ 当記事は患者さんへの分かりやすさを最大の優先事項としている為、薬の細かな作用機序や例外事項などは一部省略しております。

コメント

  • 影山敦久 より:

    大変よくわかりました。この情報は貴重です。
    私のかかりつけ医でも、ここまで詳しい説明を頂いたことはありません。

    • 湘南いいだハートクリニック 院長 より:

      ありがとうございます!
      通常の診療時間内ではここまで十分に説明することが難しいこともありますが、患者さんには十分に納得・ご理解いただいた上で、治療を受けていただくよう心掛けております。
      もし分からないことなどがあれば遠慮なくご質問下さい。

    • のヤーさん より:

      札幌
      星置の循環器科より、エンレスト、メインテート処方されました。拝読させていただきました。とても利にかなっているとおもいました。おかげさまで、不整脈も収まり、血圧も148の75となりました。諸先生ありがとうございます。

      • 湘南いいだハートクリニック 院長 より:

        札幌からありがとうございます!
        ARNIは今後もいろいろな場面で活躍してくれるお薬だと思います。
        不整脈もおさまって良かったです!

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