心不全マーカーと呼ばれるBNPは、いくつ以上の場合に精査した方が良いの?
こんにちは!
大分暑くなっており、熱中症で来院される患者さんが昨年よりも早めに増えてきております。
特に明日からは、平塚市の一大イベント “七夕祭り”も始まりますので、水分をこまめにしっかりとって、七夕祭りを楽しみましょう!
では今回は、最近テレビでも時々取り上げられ、診察時にもご質問を受けることのある、”BNP”について説明したいと思います。
BNPとは
BNPとは、所謂”心臓ホルモン”の1つで、“心臓にかかる負担の程度”を示す指標と言えます。
心不全などによって心臓に負担がかかると、proBNPというホルモンが急速に増え、このproBNPは、NT-proBNPとBNPに分解され血中に出現します。
したがって、“心臓にかかる負担の程度”が高い程、NT-proBNPやBNPという数値が上昇します。
心不全の予後予測能力(癌で言うところの余命)は、NT-proBNPもBNPも同程度とされており、最近では早期の心不全を検出するマーカー(癌マーカーのようなもの)として、再度注目を浴びています。
NT-proBNPとBNPの基準値は?
2023年「血中BNPやNT-proBNPを用いた心不全診療に関するステートメント」が発表され、NT-proBNP及びBNP値について、循環器専門医への紹介=精査を推奨する基準値が変更(引き下げ)となりました。
具体的には、下記の通り変更となっております。
① NT-proBNPは、400 pg/mL以上から、125 pg/mL以上に変更(引き下げ)
② BNPは、100 pg/mL以上から、35 pg/mL以上に変更(引き下げ)
さらに、
① NT-proBNPが、前回測定値の30%以上上昇
② BNPが、前回測定値の40%以上上昇
している場合にも、循環器専門医への紹介=精査を推奨するべきと新規に記載されました。
NT-proBNPとBNPが高いと”具体的に”何が疑われるの?
NT-proBNPやBNPは、前述の通り、心不全を早期に見つける為の心不全マーカーとして位置づけられています。
ただし、心不全ってどんな病気?の記事でも説明の通り、心不全は病名ではなく、「心臓の機能が落ちることで、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり寿命が縮まる状態」のことを言います。
つまり、心不全の兆候があるということは、「心臓の機能が落ちる何かしらの心臓の病気」が隠れているということになりますので、それが何かを調べることが重要です。
その代表として、狭心症・心筋症・弁膜症・先天性心疾患などが挙げられます。
特に、昨今、HFpEFと呼ばれる、高血圧症などを原因として、“心臓が収縮するパワー(EF)”は正常なのに、“心臓が拡張するパワー(膨らむ力)”が低下する病態(拡張障害)が注目を浴びております。
今回のNT-proBNP・BNP値の紹介基準の改訂は、これらを早期に見つけ、将来の心不全予防を行うことを主な目的とした変更点とも言えます。
例えば、今まで心臓の病気を指摘されたことがないけれども、生活習慣病で加療中のリスクの高い患者さんは、時々NT-proBNPやBNPを測定し、値が上記を満たしていれば、心エコーを含めた精査をすることが推奨されます。
HFpEFは、EF(収縮力)や心肥大所見などの見た目で分かる所見だけでなく、昨今注目されている一見見た目では分からない“拡張能力”の評価も重要であり、こうした初期の変化を心エコーでとらえる為に、一度は循環器専門医の受診を推奨致します。
尚、NT-proBNPやBNPは、性別・腎機能・肥満の有無・肺疾患の有無など、心疾患以外の要因でも変動しますので、その評価は値そのもの以上に前回からの変化の方が重要となる場合が実臨床では少なくありません。
NT-proBNPとBNPはどちらが良い指標?
病院やクリニックによって、BNPで評価する施設と、NT-proBNPで評価する施設に分かれますので、両者の違いについて説明したいと思います。
運用面
NT-proBNPは、生化学の採血管(一般的な採血項目の採血管)と同じ採血管で測定可能ですが、BNPは特殊な別の採血管を必要とする為、必然的にBNPは採血量が多少多くなります。また、BNPは温度の影響や溶血の影響を受けやすい為、測定結果の信頼性が相対的に低くなり、運用面でもやや不便となります。
早期診断
NT-proBNPは、BNPよりも心不全の”早期”診断に有利と言われています。
※ NT-proBNPは、BNPに比べ、代謝による消失が少ない為。
ARNIの効果判定
心不全の重要治療薬である(ARNI=エンレスト)は、導入開始早期は、BNPがむしろ上昇することが多い為、BNPはARNIの早期の効果判定(ARNIが効いたかどうかの評価=効けば本来は下がるはず)には用いることができません。
※ ARNIは、BNPの分解を抑制する作用を持ち合わせる為、導入早期は、BNPがむしろ上昇します。
※ ARNIについては、心不全の4大治療薬とは?でも解説していますので、ご参照下さい。
腎機能の影響
前術の通り、NT-proBNPは、BNPよりも腎機能の影響を受けて変動しやすいと言われています。
つまり、腎機能が悪化すると、それだけでNT-proBNPの方が上昇しやすくなります。
※ NT-proBNPはeGFR 90未満から、BNPはeGFR 60未満から影響を受けるという報告もあります。
この点は、昨今注目を集める「心腎連関(心疾患を心臓の視点だけでなく腎臓の視点からもみて治療を行う考え方)」の観点からは、NT-proBNPの方が心臓だけでなく腎臓も含めた視点で重症度を捉えやすい(心腎機能の総合的バイオマーカー)のですが、実臨床では、値が上昇した場合に、心臓主体の要因か腎臓主体の要因か使い慣れていないと評価が一見難しくなることがあります。
予後予測能力
最も重要な心不全患者さんの予後予測能力は、NT-proBNPもBNPも同程度とされています。
日本では、腎機能の影響などの点から、伝統的にBNPが優先的に使われてきた経緯がありますが、
今後は、ARNI(エンレスト)の登場により、NT-proBNPが主流になってくる可能性が高いと思われます。
実際、昨今の心不全の研究・論文の多くが、NT-proBNPを指標として用いており、国際的にはNT-proBNPがより普及してきている印象があります。
当院では、心保護目的にARNIを導入・調整する患者さんも少なくなく、その効果判定含めた心不全の血行動態評価目的にNT-proBNPを原則用いております。
※ ただし現状は、予後予測能力の点で両者に有意差はなく、どちらを評価指標として用いても全く問題ないものと考えられます。
NT-proBNPやBNPが高いと言われたことがあり、様子見ましょうと言われたが気になっています、などの患者さんがいらっしゃいましたら、一度ぜひ当院にご相談下さい!
※ 尚、当院ではNT-proBNPやBNP値が高い場合に、その値だけでなく、患者さんの背景因子(年齢・性別・肥満の有無・腎機能・肺疾患の有無等)や症状、これまでの推移等も加味した上で、精査の必要性・方向性を検討しております。