失神の原因は? ~脳の病気と心臓の病気とどちらが原因として多いの?~
- 2025年12月7日
- 循環器内科,2. 心臓由来の症状
こんにちは!
インフルエンザの流行に伴い、近隣の小学校では学校閉鎖にもなりましたが、そのかいもあってか次第に収束に向かっている傾向にあります。
昨年は年末にインフルエンザのピークがきましたので、引き続き油断せずに感染予防に取り組んでいきましょう!
では今回は、当院外来でも時々相談を受ける失神の原因について説明したいと思います。
“失神”というと、まずは”脳梗塞や脳出血が心配です”と相談を受けることが多いのですが、実際は脳血管性の病気での失神はほとんどなく、心臓の病気での失神の方が多いのが現実ですので、心臓の病気を見逃さないことが大切です。
そこでこの記事では、失神の原因について、いつもの通り分かりやすさ優先で説明していきたいと思います。
まず、失神とは、突然発症する短時間(数秒~数分)の意識消失発作で、立位保持が不可能となる状態(立てなくなる)を言います。
失神の原因は、A) 心臓の病気 B) 神経調節性失神 C) 起立性低血圧 D) 脳血管性 E) その他 の大きく5つに分類すると分かりやすいです。下にまとめてみましたので、まずはこちらを参考にしてみて下さい。

では、1つ1つ詳しく説明していきたいと思います。
心臓の病気(心原性)
心臓が原因で失神をきたす割合は、10~30%という報告があります。
その原因としては、不整脈か、心臓そのものの異常かによって、治療方針が大きく異なってきます。
何も兆候がなく突然失神した場合は、心原性失神を疑います。
頻脈性不整脈
心臓の心室という部屋を主体に発症する心室性不整脈は、失神だけでなく心臓が止まるリスクのある怖いタイプの不整脈です。
心室頻拍や心室細動などがこれに該当します。
また、Brugada型心電図やQT延長を健診で指摘されたことがある患者さんは、失神を起こした場合、このタイプの不整脈が原因となっている可能性がある為、必ず病院受診が必要となります。
一方、心臓の心房という部屋を主体に発症する上室性不整脈は、心室性不整脈に比較すればリスクは高くありませんが、時に失神を起こすこともゼロではありません。
したがって、心房細動や発作性上室性頻拍といった上室性不整脈も鑑別としては頭に入れておく必要があります。
徐脈性不整脈
洞不全症候群や高度・完全房室ブロックなど、脈が遅くなりすぎたり、数秒間脈を打たなくなると、失神を起こすことがあります。
徐脈性不整脈が原因で失神を起こした場合には、原則ペースメーカーが必要となります。
診断には、失神を起こした時の心電図を知る必要がある為、実臨床では、なかなか”不整脈が原因”と突き止めることが難しいのですが、繰り返す場合には、イベントレコーダーと呼ばれるマイクロチップを胸に埋め込んで、失神した時にそのマイクロチップの心電図データを取り出して確認するというような方法もあります。
心拍出量が低下する心臓の病気
心臓から全身に送り出す血液量=心拍出量が低下すると、軽い脱水などでも容易に失神を起こしやすくなります。
代表としては、心臓の出口の弁(大動脈弁)が十分開かなくなる重度の大動脈弁狭窄症、心臓の筋肉が物厚くなる閉塞性肥大型心筋症、心臓から肺へ向かう肺動脈に血栓がつまる肺血栓塞栓症が有名です。
特に、肺血栓塞栓症は失神の原因として見落とされる場合が多く、失神のガイドラインでも鑑別疾患として強調されています。
これらの鑑別の為、心原性失神を疑った場合には、心エコーで心臓そのものに異常がないか評価することが必須となります。

神経調節性失神
神経調節性失神が原因で失神をきたす割合は、36~62%という報告があり、失神の原因としては最多です。
神経調節性失神には、下記の通り、いくつかのタイプがあり、失神を起こす直前の状況によってある程度推測が可能です。
このタイプの失神には予防策がいくつかありますが、説明すると長くなりますので、また別の記事で説明したいと思います。
血管迷走神経反射
長時間立っている際に起きる失神や、採血時の痛みによる失神が代表です。
また、心筋梗塞(右冠動脈)時に徐脈となり、失神をきたす場合がありますが、その場合の機序もこれに該当すると言われています。
状況失神
特定の状況で失神することがあります。
代表は、咳やくしゃみ、排尿・排便後、食後の失神です。
頸動脈洞性失神
首の頸動脈洞という部位への刺激によって失神します。
代表は、髭剃りの際や、運転中に首を後ろに回して後方の車を確認している際に発症する失神です。

起立性低血圧
起立性低血圧が原因で失神をきたす割合は、2~24%という報告があります。
起立(立ち上がる)によって急激に血圧が低下することで発症します。
起立性低血圧には必ず器質的な要因がありますので、その要因を見つけて治療することが、予防への近道となります。
要因としては、貧血や脱水、消化管出血、糖尿病(自律神経障害)、Parkinson病、薬剤性(利尿薬や前立腺薬(α blocker)、抗精神病薬など)などがありますので、必ず採血等によって確認が必要になります。
脳血管性
脳血管性が原因で失神をきたす割合は、1%と実は失神の原因としては低めです。
脳梗塞や脳出血を起こせば、何もせずにすぐに回復することは多くなく、失神ではなく意識消失や意識障害をきたします。
また、脳梗塞の前兆とも呼ばれる一過性脳虚血発作(TIA)も失神をきたすことは非常に稀です。
失神をきたす脳血管性の病気として、椎骨脳底動脈循環不全や鎖骨下動脈盗血症候群が挙げられますが、いずれも出会うのは稀です。
その他
上記以外の失神の原因として、大動脈解離、てんかん、ヒステリーなどがあり、いずれも頻度は多くはないですが、鑑別疾患として常に頭に入れておく必要はあります。
※ 正確には、脳内の電気的活動の異常によるてんかんと、脳への血流が一時的に減少する失神は、作用機序の点で異なる概念ですが、重要な鑑別疾患として、敢えてここに記載致しました。
失神は、その原因に心臓の病気が隠れている可能性があります。
特に失神を複数回繰り返している患者さんは一度は精査をした方が良いですので、一度当院へご相談下さい!
