胸痛の原因は?
- 2023年4月9日
- 循環器疾患,2. 心臓からくる症状
こんにちは!
新年度が始まり、入学式・お花見など新鮮な雰囲気に浮き立つ一方で、ストレス等が誘因となって不整脈症状が増えてきたという相談も受けることが多い時期となりました。
「動悸の原因」については以前に取り上げたことがありますので、今回は「胸痛の原因」について説明したいと思います。
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胸痛の原因は、A) 心臓の病気 B) 血管の病気 C) 肺の病気 D) その他 の大きく4つに分類すると分かりやすいです。さらに、A)、B)、C)、D)の内訳として頻度の高いものを下にまとめてみました。
この中でも特に緊急を要する怖い病気として、心筋梗塞・狭心症・大動脈解離・肺血栓塞栓症・気胸が有名です。
そこで、1つ1つ詳しく説明していきたいと思います。
心臓の病気
心筋梗塞
動脈硬化によって心臓の血管が完全に詰まってしまうと、心臓に酸素が全く届かなくなってしまう為、心筋梗塞を発症します。
「じっとしていても胸が痛む」というのが典型的な心筋梗塞の症状で、心臓が止まってしまうこともある為、緊急治療が必要になります。
心筋梗塞を発症しているかどうかは心電図をみれば高い確率で診断可能です(特徴的なST上昇)。さらに疑わしい場合には緊急で心エコー検査も行い、迅速に対応致します。
狭心症
狭心症は動脈硬化によって心臓の血管の中が細くなり、心臓に酸素が十分届かなくなることで発症します。
「歩いた時や階段を上った時に胸が痛む、息苦しくなる」というのが最も典型的な狭心症の症状で”労作性狭心症”と呼ばれます。
一方で、冠攣縮性狭心症(異型狭心症)と呼ばれる「じっとしていても胸が痛む」特殊な狭心症も存在します。特に夜~朝方にかけて認める場合には強く疑います。ストレスなどがトリガーとなって発作が増えるのが特徴です。
この場合は一般的に異型狭心症薬による診断的治療を行うことが多いですが(まずは薬による治療を行い、その効果をみて診断の一助とする)、いずれにせよ、心電図・心エコー検査・採血など一通りの心疾患精査を行ってから評価します。
不整脈
不整脈の症状は一般に動悸やめまい・ふらつきが多いのですが、時々”胸痛”や”胸苦しさ”を訴えられる患者さんもいらっしゃいます。
よく問診の上、不整脈の可能性も疑われる場合には、24時間Holter心電図と呼ばれる1日心電図を装着する検査を行い、症状がある際に不整脈が出ているかを確認します。
心外膜炎
心臓の周囲にある心臓の膜に炎症が起こることで、息を吸ったときに胸痛が悪化するのが特徴です。典型的には仰向けになると悪化し、座って前かがみになると和らぐことも特徴です。
心外膜炎の患者さんの85%で心膜摩擦音(心臓の膜がすれる音)を聴診で確認でき、さらに心電図で特徴的な変化(広範囲の誘導でST上昇, PR部位の低下)をきたすことで診断可能です。
心筋炎
心臓の筋肉そのものに炎症が起きることで発症し、ウイルス性や薬剤性などが原因となります。
数日以内に急速に心機能が悪化していくことが多く、症状経過や心電図・心エコー検査・採血所見などで疑わしければ迅速な対応を要します。
弁膜症
心臓には4つの弁があり、弁が開いたり閉じたりすることで効率よく心臓から全身へ血液を送り出しているのですが、その弁がうまく開いたり閉じたりできなくなる病気を弁膜症と呼びます。
弁膜症にはいくつか種類がありますが、その中でも特に重度の大動脈弁狭窄症や僧帽弁狭窄症と呼ばれる弁膜症は胸痛もきたすことで有名です。
胸痛をきたすほどの弁膜症があれば聴診で分かりますので、聴診は初診時に欠かさず行っております。
血管の病気
大動脈解離
心臓から出る体内で最も太い血管を大動脈と呼びますが、その大動脈の壁(中膜)が避けてしまうことで発症します。
高血圧を放置していた患者さんなどで多く、予兆なく突然の激痛で発症し、発症後迅速に対応しないと救命できない場合も少なくありません(緊急手術)。
背部痛を伴っていたり、血圧の左右差がある場合などは特にあやしく、胸部レントゲン検査や心エコー検査、場合によってはCTでの評価が必要になります。
肺血栓塞栓症
肺動脈という肺の血管に血のかたまりが詰まり、肺での円滑な酸素の入れ替えができなくなってしまう病気です。深部静脈血栓症(俗にいうエコノミー症候群)と呼ばれる足の静脈に血のかたまりができて、その血のかたまりが肺にとんで発症することがほとんどです。
肺血栓塞栓症は息切れや動悸の原因になりますが胸痛を訴えられることも多く、胸痛をきたす疾患の中で特に見過ごされやすいものの1つとして昨今報告もされています。
肺血栓塞栓症は心エコー検査や心電図・採血によって疑い、診断は胸部CTや肺血流シンチという検査によって行います。
治療は血をさらさらにする薬で血のかたまりを溶かす治療を行います。
高血圧症
血圧が高いと、心臓が全身に血液を送り出すためにより多大なエネルギーを必要とするようになり、それだけ心臓に負担がかかります。この負担が大きいと場合によっては胸痛をきたすことがあります。
実際に高血圧の薬によって血圧を下げることで、胸痛などの症状が消失した患者さんも少なくはなく、高血圧症も胸痛の原因の1つとして考える必要があります。
肺の病気
肺炎・胸膜炎
肺炎や肺の周りにある膜(胸膜)に炎症が起きる胸膜炎では、息を吸った時に胸痛が増悪します。胸膜炎は肺炎や肺癌による炎症の波及によって生じることが多く、肺の周りに胸水と呼ばれる水が貯まります。
肺炎は聴診や胸部レントゲン検査などによって診断しますが、胸膜炎については胸部レントゲン検査では診断困難なことが多く、胸部CTや臨床所見から診断し、治療を行います。
気胸
肺に穴があいて空気が漏れ出てしまうことで呼吸が苦しくなり、場合によっては胸痛を感じられます。若い男性に多く、比較的急速に発症します。
胸部レントゲン検査で診断可能です。
治療は胸腔ドレーンという管を入れて漏れ出た空気を抜く治療を行います。
その他の病気
帯状疱疹
胸痛というと心臓の病気が第一に思い浮かぶと思いますが、発疹が最近なかったか聞くとそういえばと言われて帯状疱疹が見つかることも少なくありません。
帯状疱疹は発疹の中でも体の片側に出現し、”ピリピリ”とした痛みを伴うことで特徴的な為、比較的診断が容易です。
したがって比較的最近胸痛を認めるようになった患者さんでは必ず発疹の有無の確認が必要です。
尚、風邪などで免疫力が低下した際に発症しやすく、治療は帯状疱疹ウイルスの抗ウイルス剤(原則飲み薬)で行います。
逆流性食道炎
胸痛の原因としては考えなければならない疾患の1つです。特に早朝や仰向けになった際に悪化する場合には疑う必要があります。
胃酸が上がってくるような感じやゲップが多いというような症状も伴う場合には胃カメラを推奨しています。
胆石・胆嚢炎
肝臓の真下に、胆汁と呼ばれる消化液を出す臓器である胆嚢がありますが、その中に石(胆石)ができてしまい、その胆石が胆汁を排液する通路に詰まってしまうと(嵌頓と呼びます)、胸痛を生じます。具体的には右季肋部と呼ばれる右の肋骨下辺りに圧痛が生じます。
さらに胆石が詰まることで胆汁が貯まりばい菌が繁殖すると胆嚢炎や胆管炎を発症します。
採血や腹部エコー検査によって診断可能です。胆石は詰まらなければ経過観察する例も多いですが、詰まってしまったり胆嚢炎を発症した場合には胆嚢摘出術が原則行われます。
肋骨骨折
肋骨骨折による胸痛は、呼吸や咳をした時や動く動作によって胸痛が増悪します。
胸部レントゲン検査では診断が困難な為、疑わしい場合には整形外科受診を推奨しています。
肋間神経痛
肋骨に沿って肋間神経が走っており、この肋間神経が刺激されることで“ピリピリ”や”チクチク”といった痛みが生じます。
脇腹から胸の前面に向かって肋骨に沿って痛みを認め、呼吸や咳をした時に増悪する場合には特に疑います。
症状が強い場合には末梢神経障害用鎮痛剤などによる対症療法を行います。
不安神経症、パニック障害
不安神経症やパニック障害などでも胸痛を認めます。
ただし、ご本人の意識や経過から明らかな場合を除いて基本的に当院では除外診断に近い立ち位置で考えております(精神的疾患を検討する前に身体的疾患の除外を行います)。
したがいましてまずは、採血・心電図・胸部レントゲン検査や場合によっては心エコー検査などによって、上で説明したリスクの高い病気の可能性を除外することを最優先としております(もちろん精査の進め方は患者さんの希望に沿う形で進めます)。
胸痛の原因は上で説明しました通り、命に関わるリスクの高い病気の可能性も潜んでいます。
例えば、ストレスが原因と考えられていても、そのストレスによって狭心症や不整脈などを発症(増悪)させている場合もあります。
したがいまして、原因が明らかである場合を除き、基本的には早めに受診・相談するようにしましょう!