悪玉コレステロール治療薬の選び方
こんにちは!
ゴールデンウィークが明けて発熱患者さんが少しずつ増えてきました。
5月8日より5類感染症へ移行しておりますので発熱外来受診の際は、発熱外来の案内をご一読いただけますと幸いです。
では、今回は当院通院患者さんのもつ疾患として高血圧症の次に多い脂質異常症、特に悪玉コレステロール治療薬の選び方について説明したいと思います。
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悪玉コレステロール(LDLコレステロール)治療薬は、その作用機序から、
A)スタチン
B)小腸コレステロールトランスポーター阻害薬(ゼチーア)
C)PCSK9標的薬: PCSK9抗体阻害薬(レパーサ、プラルエント)、 siRNA製剤(レクビオ)
の大きく3つに分類すると分かりやすいです。
そこでこれら3つの一般的な導入・調整方法を下にまとめてみました。
このようにまずはスタチンから治療を開始し、スタチンでも効果が不十分な場合は、スタチンを増量するかゼチーアを追加するという流れが一般的です。
さらにそれでも十分下がらないリスクの高い患者さんでは、適応を満たせばPCSK9標的薬という注射薬も近年打てるようになりました。
そこで悪玉コレステロール治療薬の選択・調整の上で参考になる特徴をそれぞれの分類毎に説明していきたいと思いますので、分かりにくくなりましたらこの分類に立ち戻っていただけましたら幸いです。
スタチン
スタチンは悪玉コレステロール治療薬の王道で、最もエビデンス(証明された効果)の構築されたお薬です。
悪玉コレステロールの合成過程の一部を抑制することで悪玉コレステロール値を下げます。
治療開始に当たっては、まずはこのスタチンによってしっかり悪玉コレステロールを下げることが大切です。
スタチンには、① ストロングスタチン ② スタンダードスタチン の2つに大きく分類されます。
治療目標に応じていずれかを使い分けしますが、ストロングスタチンの方がスタンダードスタチンよりも効果が高い為、一般的にはストロングスタチンを選択することが多いです。
スタチンには、処方率の高い順に下記の3つがあります。
A) クレストール(ロスバスタチン)
B) リピトール(アトルバスタチン)
C) リバロ(ピタバスタチン)
添付文書上は、クレストールはリピトール・リバロよりも錠剤の用量の幅が多い為、細かな調整がしやすいという特徴があります。
※ クレストールは2.5mg~20mg(8倍)、リピトールは10mg~40mg(4倍)、リバロは1mg~4mg(4倍)まで調整可能です(家族性の場合を含)。
後に説明するゼチーアとの配合錠は当初はクレストールとリピトールのみだったこともあり、この2剤の処方率が高いのですが、効果も副作用の頻度も同程度と報告されている為、その選択は先生の好みによるところも大きいと思います。
副作用としては、筋肉痛や肝機能障害などがあり、このような徴候を認めた際にはすぐにお薬を中止致します。
スタチンで悪玉コレステロールが十分下がらなかった場合
ストロングスタチンによっても悪玉コレステロールが十分下がらなかった場合には、
① ストロングスタチンを増量する
② ゼチーア(エゼチミブ)を追加する
の2つの方法が一般的に用いられます。
ただし、①については、ストロングスタチンを2倍に増量しても効果は2倍にはならず6%しか効果が上がらないことが知られています(”6%ルール”と呼ばれます)。
したがって、スタチンとの相乗効果を期待できるという意味合いでも次に説明する②のゼチーア追加も積極的に検討するようにしています。
また、ゼチーアはストロングスタチン 3剤のいずれとも合剤がありますので、錠剤数も増やさずに服薬アドヒアランスを保てます。
小腸コレステロールトランスポーター阻害薬
小腸から悪玉コレステロールが取り込まれるのを防ぐお薬になります。
お薬としては、ゼチーア(エゼチミブ)があります。
スタチンとゼチーアの併用によって心血管イベント(心筋梗塞など)を抑制することは既に証明されており、相乗効果という意味合いでもスタチンとの併用で用いることが多いです。
ストロングスタチンとの合剤としては、ロスーゼット(クレストールとの配合錠)・アトーゼット(リピトールとの配合錠)・リバゼブ(リバロとの配合錠)があります。
また、スタチンの内服で筋肉痛などの副作用が生じた場合に、代わりにゼチーアを用いるという方法もあります。
副作用としては、腹痛などの消化器症状や肝機能障害などがあり、このような徴候を認めた場合にはやはりお薬をすぐに中止します。
PCSK9標的薬
スタチンと併用することで悪玉コレステロールをしっかりと下げることができる強力な新規注射薬です。
肝臓が悪玉コレステロールを取り込むのをサポートすることで、血中の悪玉コレステロールを減らします。
ただし現在適応は限られ、家族性または心血管イベントの発症リスクが高く、最大量のスタチンを内服しても効果が不十分な患者さんに用います。さらに、投与する場合はスタチンと併用していなければなりません(作用機序の問題から)。
お薬としては、
① PCSK9抗体阻害薬:レパーサ(エボロクマブ)とプラルエント(アリロクマブ)
2週間もしくは4週間に1回皮下注射。
② siRNA製剤:レクビオ(インクリシラン)
半年に1回皮下注射。
があります。注射手技に慣れればご自宅での注射も可能です。
薬価が高いのが問題点ですが、特に心筋梗塞や脳梗塞などの既往のある患者さんでは、悪玉コレステロールをしっかり目標値まで下げることが必要であり、スタチンやゼチーアでも十分なコントロールが困難な場合には、こういった注射薬の導入も検討します。
心筋梗塞後の患者さんなどの二次予防(再発予防)の為には、悪玉コレステロールをしっかり下げることが必須であるとガイドラインにも記載されております。そのような患者さんでなかなか下がらないケースも数多く経験してきましたので、当院ではそういった経験も元にお薬の調整を行っております。
悪玉コレステロール治療でお困りの患者様はお気軽にご相談下さい!
※ 当記事は患者さんへの分かりやすさを最大の優先事項としている為、薬の細かな作用機序や例外事項などは一部省略しております。
※ 2023年9月24日にレクビオの製造販売が新規に承認されたことを受け、当記事を一部更新しております。