安静時の胸痛は冠攣縮性狭心症や微小血管狭心症かもしれない
- 2024年11月24日
- 循環器疾患,5. 狭心症・心筋梗塞
こんにちは!
大分冷え込んできましたね。
急激な気温差は血圧の乱高下を引き起こし、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こすトリガーとなることがありますので(ヒートショックと呼ばれます)、特に冷え込む日の入浴時などは過剰な温度差が発生しないよう工夫しましょう!
では今回は、”労作時”の胸痛の原因の一つとして知られる労作性狭心症について、胸痛の原因は?で説明しましたが、“安静時”にも認める胸痛の原因の一つとして重要な、冠攣縮性狭心症、及び微小血管狭心症について、両者の違いを比較しながら説明したいと思います。
症状
一般的に知られる”狭心症”は、心臓の血管が動脈硬化によって細くなる労作性狭心症を指すことが多く、その名の通り、労作時=走ったり階段を昇ったりする負荷時に症状を認めることがほとんどです(不安定でない限り)。
一方で、労作に関わらず、安静時にも認める狭心症として、冠攣縮性狭心症と微小血管狭心症があります。特に、後者は最近テレビでも取り上げられ、患者さんから相談されることも多くなりました。
冠攣縮性狭心症
労作性狭心症と同様に、胸部圧迫感を認めることが多く、左奥歯や肩への放散痛を認めることもしばしばあります。
夜~朝方にかけて多く認め、数分~数十分で消失するのが特徴です。
微小血管狭心症
冠攣縮性狭心症と同様に胸部圧迫感や放散痛を認めることが多いですが、その他にも息苦しさや背部痛・胃痛など症状が比較的多岐に渡ります。
冠攣縮性狭心症よりも持続時間が長めのこともあり、1時間程度続くこともあります。
原因
労作性狭心症と異なり、いずれも動脈硬化が”直接”関与はしないことが特徴です。
冠攣縮性狭心症
心臓の”太い”血管が一時的に痙攣(攣縮)することで、心臓への血流が減ることが原因となります。
微小血管狭心症
心臓の”細い”血管が十分に拡張できない(広がらない)ことで、心臓への血流が減ることが原因とされていますが、確かなことは分かっておりません。
日本人の場合は、微小血管狭心症も、冠攣縮性狭心症と同様に血管が一時的に痙攣することが原因になっていることも多い可能性が示唆されています。
発作が増える契機
冠攣縮性狭心症も微小血管狭心症も、発作が増える契機があり、典型的なものは下記となります。
・ 精神的ストレス
・ 睡眠不足
・ 喫煙
・ 寒冷刺激
などです。
微小血管狭心症は、特に女性ホルモンとの関与が強いことも示唆されており、更年期の女性にも多いとされております。
診断法
冠攣縮性狭心症や微小血管狭心症を疑った場合の当院での診断手順は、下記の通りです。
心エコー
同様の胸部症状を引き起こす他の心臓の病気との鑑別で、心エコーは必須と言えます。
24時間Holter心電図、運動負荷試験
さらに症状を認めている際に心電図変化があるかを確認する為の24時間Holter心電図や、労作性狭心症との鑑別目的の運動負荷試験(当院ではマスターダブル)も、必要に応じて行います。
ニトロ、ミオコールスプレー
冠攣縮性狭心症や微小血管狭心症を強く疑う場合には、ニトロという舌下錠やミオコールスプレーという舌下スプレーを、症状を認めた際に頓用していただき、効果があるかを判定します。
診断的治療と言い、治療そのものが診断につながる為、非常に重要です。
尚、微小血管狭心症の場合は、ニトロの効果が乏しい方も多い為(効果があるのは50%程度という報告があります)、ニトロの効果がなくても、微小血管狭心症の可能性は否定せずに、診療を進める姿勢が大切です。
カテーテル検査
冠攣縮性狭心症の確定診断法として、カテーテル検査があります。
- カテーテル検査とは、造影剤を直接心臓の血管に入れて、心臓の血管を映し出す検査です。心臓の血管が有意に細くなっており、症状の原因と考えられれば、労作性狭心症と診断されます。
- 心臓の血管が細くなかった場合(正常)、さらに心臓の血管の痙攣を誘発するお薬を入れる負荷試験を行います。これによって、心臓の血管が痙攣して細くなれば(陽性)、冠攣縮性狭心症と診断されます。※ 誘発薬の正確な作用機序はやや異なりますが、分かりやすさ優先の表現としております。
- 負荷試験でも、心臓の血管が細くならなかった場合は(陰性)、微小血管狭心症が疑われますが、心臓の微小な血管は、カテーテル検査でも映し出せない為、微小血管狭心症の確定診断法はなく、あくまで”疑い”という形で治療を進めていく姿勢も大切です。(負荷試験時に循環障害を示唆する乳酸値を測定するといった特殊な診断法はありますが、現状は一般には行われていません)
注意点として、カテーテル検査で、労作性狭心症や冠攣縮性狭心症が否定的とされても、必ずしも微小血管狭心症は否定できないという点がポイントです。
尚、治療を進める上でカテーテル検査は必ずしも必須ではなく、症状を認めた際に典型的な心電図変化があった場合や臨床的に明らかに疑う場合、カテーテル検査の施行そのものが適さない場合などでは、”疑い”という形で診断的治療を行っていくことも、実臨床では少なくありません(ガイドライン一辺倒ではなく、”患者さんにとって”のメリット・デメリットを考え、治療方針を立てます)。
冠攣縮性狭心症と微小血管狭心症は、安静時にも胸痛を認める点、動脈硬化を”直接”の原因としない点、ストレス等が原因となる点などで、労作性狭心症とは一線を画した病態です。
自分がもしかしたら冠攣縮性狭心症や微小血管狭心症ではないか?と悩まれている方がいらっしゃいましたら、遠慮なくご相談下さい!
尚、治療法については、長くなりましたので、後日改めて別の記事で説明したいと思います。
※ 当記事は患者さんへの分かりやすさを最大の優先事項としている為、発症機序など一部分かりやすさ優先の表現としております。