心不全の4大治療薬とは?
こんにちは!
冷え込みとともにインフルエンザ陽性の患者さんも急激に増えておりますが、同時に不整脈発作や狭心症発作での相談も増えております。
特に朝の冷え込む時間帯などは、できるだけ体を温めて過ごすようにしましょう!
では今回は、当院通院中の患者様にも多い”慢性心不全”の”4大治療薬”について説明したいと思います。
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慢性心不全の4大治療薬とは?
心不全とは、心不全ってどんな病気?の記事でも紹介しました通り、
「心臓の機能が落ちることで、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり寿命が縮まる状態」のことを言います。
そして、心不全の原因となる疾患は、下イラスト図の通り、心臓の病気だけでなく、高血圧症など生活習慣病も含まれます。
また、心不全は一度増悪すると、その後も増悪を繰り返すことがほとんどですので、再増悪予防が非常に重要で、その為の日常生活で努めるべき方法を、心不全との付き合い方の記事でも説明しました。
そこで当記事では、心不全の再増悪予防の為のお薬での治療法について説明したいと思います。
まず、慢性心不全の治療薬は、”fantastic four”と呼ばれる4大治療薬があり、まずはこの4つのお薬が心不全治療の大きな土台となりますので、それぞれ詳しく説明したいと思います。
“fantastic four”は、SGLT2阻害薬・ARNI・β blocker・ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬という4つの治療薬で構成されます。
そこで、それぞれのお薬の効能について、次に説明していきたいと思います。
SGLT2阻害薬
SGLT2阻害薬は、心臓・腎臓の両者を守る効果を兼ね備えた昨今注目されているお薬です。
具体的には、フォシーガ・ジャディアンスというお薬になります。
心臓も腎臓も守ってくれる今注目の糖尿病治療薬=STLT2阻害薬は?でも紹介しました通り、
① 尿から過剰な糖の排泄を促すことで血糖値を下げる糖尿病治療薬としての効果
② 腎臓の機能が低下する速度を減らす腎臓を守る効果
③ 体重減少効果
などを持ち合わせますが、こと循環器の観点からこの薬を見ると、
心不全患者さんにおいて、心不全再入院・心血管死亡を減らすという効果で非常に注目を浴びています。
特に、下記のような心不全患者さんでは、効果をより得られやすくなる可能性が高く、当院では導入を提案することも多くあります。
① 糖尿病や肥満を合併する心不全患者さん
② 腎臓病が進行しつつある心不全患者さん
③ 脚のむくみなど体に水が貯まり傾向の心不全患者さん(特に心臓の収縮力が低下した患者さん)
副作用は、尿路感染などが挙げられますので、膀胱炎リスクのある女性の方などでは導入を控えます。
また、導入後に”initial drop”と呼ばれる一時的な腎機能悪化をきたすことがありますが、長期的な視点でみると腎臓を守ることにつながりますので、導入後しばらくは、腎機能の変動に一喜一憂しない姿勢も大切です。
ARNI
ARNIも、SGLT2阻害薬と並び、心臓・腎臓の両者を守る効果を兼ね備えた昨今注目されているお薬です。
具体的には、エンレストというお薬になります。
循環器医から見た高血圧薬の選び方でも紹介しました通り、
① 高血圧症の治療薬としての効果
② 腎臓の機能が低下する速度を緩める効果
③ 糖尿病や高尿酸血症を改善させる効果
などを持ち合わせますが、こと循環器の観点からこの薬を見ると、
心不全患者さんにおいて、心不全再入院・心血管死亡を減らすという効果でやはり非常に注目を浴びています。
特に、下記のような心不全患者さんでは、効果をより得られやすくなる可能性が高く、当院では導入を提案することも多くあります。
① 高血圧症があり、NT-proBNP(心臓の負担を表す数値)が高い患者さん
② 脚のむくみなど体に水が貯まり傾向の心不全患者さん(特に心臓の収縮力が低下した患者さん)
③ 心エコーをみて効果を得られそうな患者さん(左心房が大きい、僧帽弁閉鎖不全症が目立つ例など)
副作用は、効きすぎると過降圧をきたすリスクがある為、心臓の病気をお持ちの患者さんで導入する場合は、慎重に導入する必要があります。
また、腎機能やカリウムなど定期的な採血確認は必須となります。
β blocker
β blockerは、心臓を守る作用に長けた、いまや伝統的な心不全治療薬で、循環器医には非常に使い慣れたお薬です。
具体的には、アーチスト(カルベジロール)・メインテート(ビソプロロール)というお薬になります。
特に、下記の点で他剤よりも効果が非常に確立されており、心不全治療薬としての地位は今後もゆるぎがないでしょう。
① 収縮する力が低下した心臓を回復させる効果(reverse remodeling効果)
先に説明したSGLT2阻害薬やARNIにも、このような効果を示す報告が数多くありますが、
β blockerはこの点に関して、確立されたevidenceがあります。
また、この効果は用量依存性の為、お薬の量が多い程、その効果が得られる可能性が高くなりますが、当院では患者さん個々に適した量を複数の観点から慎重に選定しています。
② 予後不良な心室性不整脈を減らす効果
期外収縮・心房細動など(徐脈以外の)あらゆる不整脈に対して用いられる不整脈の万能薬と言っても過言ではないですが、予後不良な心室頻拍・心室細動を予防する効果も確立されています。
この他にも、労作性狭心症の発作の閾値を上げる(胸痛発作を起こりにくくする)など、心臓に対する効果において今でも最も安心できるお薬の一つです。
副作用として、徐脈に伴うふらつきを認めることがありますので、その場合には量を減らすなど調整を行います。
また、心機能が低下している患者さんや心不全増悪傾向の患者さんでは、導入時に逆に一時的に心不全悪化をきたすことがある為、導入するタイミング・量には十分な経験と注意を要します。
ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬
ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は、利尿作用も兼ね備えた伝統的な心不全治療薬で、β blocker同様、循環器医には非常に使い慣れたお薬です。
具体的には、アルダクトン(スピロノラクトン)というお薬になります。
脚のむくみなど体に水がたまり傾向の心不全患者さんでは、ループ利尿薬と呼ばれる利尿薬(フロセミドやアゾセミドなど)を導入することが一つの治療の選択肢となりますが、ループ利尿薬はRAS系と呼ばれる予後不良なホルモンの悪循環を亢進させます。
一方で、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は、このRAS系を抑制させつつ利尿作用を併せ持つ為、ループ利尿薬のデメリットを相殺させる目的にも併用されることが実臨床では多いです。利尿作用そのものはループ利尿薬に劣る為、利尿を主な目的とする場合に利尿効果のより強いループ利尿薬と併用という使われ方をします。
尚、心不全再入院・心血管死亡を減らすという心臓を守る作用は確立されていますが、女性化乳房をきたす場合が稀にあり、その場合には、セララ(エプレレノン)に代えることがあります。
腎機能やカリウムなど定期的な採血確認が必須なのは、ARNIと同様です。
予後改善効果のある心不全治療薬は、昔はβ blocker・ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬がベースでしたが、昨今は当記事でも紹介したSGLT2阻害薬やARNI、さらにsGC刺激薬(ベルイシグアト)など、その発展は著しいものがあります。
当院では、最新の情報に基づきつつ、患者さん個々の想いにも寄り添い、心不全治療を行っております。
心不全治療でお悩みの患者さんがいらっしゃいましたら、ぜひご相談下さい!
※ 当記事は患者さんへの分かりやすさを最大の優先事項としている為、HFpEF・HFmrEF・HFrEFでの使い分けや、薬の細かな作用機序・例外事項などは一部省略しております。